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「空の革新」と航空自衛隊

轟音を上げ、目の前を過ぎる機体
ジェットエンジンの熱風と臭いが辺りを包む
滑走路中央でタッチアンドゴーした機体は瞬く間に青い空の向こうへと消えて行く

地表にいる我々にとって、この空はあまりにも大きい
では、戦闘機パイロットにとって、空とはどんな環境なのか?

 その根源的な問いへのヒントを探るべく、エースコンバット7開発チームは企画初期段階である2015年6月、石川県にある航空自衛隊小松基地に赴いた。航空自衛隊第6航空団第306飛行隊。今年創設40周年を迎えた歴史ある戦闘機部隊であり、全国から選りすぐりのパイロットを集めて戦技教育を行う、言うなれば日本における「トップガン」だ。
 そんな彼らに開発中のゲーム映像を確認していただく機会を得た。「空の革新」をテーマに、新しいゲームエンジンで描画した空や雲を用いて、想定したゲームメカニクスを映像で表現したものだ。ベテラン、そして若手のイーグルドライバー達の鋭い眼光に晒されつつも、評価は良好。しかしそこから話を広げていくにつれ、我々が普段目にしている”空”というものは、想像していたよりもはるかに過酷な環境であることが判明していった。
 最も大きなものは”雲”の存在だ。ゲームとは違い、何よりも飛行の安全確保を優先する現実のパイロットにとっては、雲は視界を遮るだけでなく、時として機体にダメージを与える要因となりうる。特に強い気流の影響で爆発的に発達する積乱雲などは、ほんの数十秒で空の状況を一変させる。被雷の危険性は増し、雹(ひょう)や着氷によるエンジンへのダメージにも注意が必要となる。刻々と変わる環境はパイロットの状況判断に大きく作用していく。
 発雷の兆候として無線にもノイズが混じる。チーム内や管制塔とのコミュニケーションが重要である戦闘機パイロットにとってはやっかいな存在だろう。
故に通常の飛行では大きな雲の周りへは近づかない。風雨の影響をダイレクトに受ける飛行機乗り達の根底には、自然への畏怖があるのだ。

 しかし、そんな雲を戦術に活用する方法もあるという。その話から(彼らが話せる範囲内での)核心へと進んでいった。赤外線ミサイルやレーダーミサイルがどのように雲を捉えているのか。「雲に入る」という行為のメリットとデメリットとは何か。雲中での計器類やレーダーの活用方法とは。そして、レーダーが全てと思われがちな現代航空戦においても尚、目視による有視界戦闘が依然重要である事など。我々はパイロット達が語る様々な事例に触れるにつれ、それまでの空の概念が大きくアップデートされていくのを感じた。
 過酷な環境面ばかりが目についていたが、それだけではない。空を飛ぶ雄大な感覚は何物にも代えがたいという。そして空に生きる彼らが見た、忘れられない光景の数々。離陸して眼下に広がる街の息づいた様子。雲間から見える美しい夕陽。上空からの花火大会の絶景。青白く機体を包むセントエルモの火。ブロッケン現象。時には鳥がつかんでいた魚がキャノピーの横を通り過ぎていった事もあったそうだ。日常的なものからレアケースまで、彼らが目の当たりにしてきた空の光景は我々の好奇心を刺激するばかりだった。
 小松基地ではパイロットだけではなく、機体整備や航空管制などの様々な職務にあたる方々からも貴重な話を伺う事が出来た。そこから見えてきたのは、戦闘機パイロットは決して特別視されるものではなく、数ある仕事の一つであるということだ。彼らは組織の中においてそれぞれの立場を尊重しつつ、対等な関係で役割を果たしている。それぞれの職務を果たし、変化する状況には協調して対応し、相互の信頼を積み重ねてきたからこそ、この大規模な航空基地は機能しているのだと感じられた。
 我々はこの取材を通じ、これらを「体験」としてゲームに盛り込みたいと決意した。キャラクターや環境の設定、ゲームメカニクス、無線、そしてVRなど、すでにエースコンバット7をプレイされた方なら心当たりがある事だろう。フライトゲームにおける”空の革新”を目指し実現できたのは、間違いなくこの取材の影響が大きい。協力いただいた全ての方々に改めて謝意を示したい。

ACE COMBAT™ 7: SKIES UNKNOWN 25th Anniversary Update -JASDF Skin Series-

この度配信となる“エースコンバット25周年記念アップデート-航空自衛隊スキンシリーズ-”では、小松基地をはじめとした航空自衛隊各基地の特別塗装機から三機を選定させていただいた。以下に紹介したい。

F-2A 6SQ 60th ANNIVERSARY Skin

「F-2A」の6SQ(航空自衛隊 第8航空団 第6飛行隊)
創設60周年記念塗装スキン。八咫烏(ヤタガラス)をモチーフとしてデザインされている。真っ赤なF-2という非常にインパクトのあるカラーリングであり、観る者を勇気づける。青のベースカラーと赤い翼のコントラストが映えるデザインだ。

F-15J KOMATSU SPECIAL MARKING 2017 Skin

「F-15J」の306Q(航空自衛隊 第6航空団 第306飛行隊/愛称:ゴールデンイーグルス)
小松基地航空祭記念塗装スキン。開催当日は台風の為やむなく中止となってしまったが、事前予行フライトの際に見せた垂直尾翼のイヌワシデザインは文句なしの格好良さでファンを魅了した。

301SQ F-4 Final Year 2020 Skin

「F-4E Phantom II」の301Q(航空自衛隊 第7航空団 第301飛行隊/愛称:ケロヨン)
F-4退役記念塗装を模したスキン。カエルがF-4機体にデザインされていることから、ケロヨンファントムとも呼ばれる。ダイナミックに描かれたカエルのマークは隊員達の愛の大きさを十分に表しているだろう。

尚、今回の自衛隊スキンにおいては株式会社ハセガワ様の御厚意により、各機体のプラスチックモデルキットのデカール原画を御提供頂き、テクスチャー作成時の参考資料とさせていただいた。ゲーム中のハンガー等でその高い品質と再現度が確認できるだろう。そして興味があれば是非キットを入手し、デカール貼りの楽しさを体感していただければと思う。

今回配信した機体以外にも航空自衛隊には沢山の特別塗装機があり、どれも豊かな発想でデザインされ、ファンを楽しませている。残念ながら2020年そして2021年と各地の航空祭が中止となってしまい、航空ファンにとっては我慢の時が続いている。コロナ禍が収束し、また各地で航空祭が開催される日が来ることを心より願う。その時、どんな機体が会場を沸かせるのか。今から大いに期待したい。

文責:菅野昌人(株式会社バンダイナムコスタジオ)